【因伯之果樹平成16年・10月号より】
全国農業共同組合連合会 鳥取県本部 発行
袋かけの歴史と今後  伊 澤 宏 毅


1.果実袋の歴史

  本県でいつ頃からナシに対して袋かけがなされていたのか具体的な記録がないが袋かけは、おそらく明治の末期には一般に普及し、新聞袋が掛けられていたと考えられる。ただし、二十世紀以外の品種では病害虫防除に効果を上げていた新聞袋も、黒斑病感受性の二十世紀にとっては、無力であったと想像される。記録にも二十世紀梨が鳥取県に導入されて10数年後の大正9年(1920年)には、県内で黒斑病が大発生し、産地は危機的な状態となったと記されている。この危機を救った技術の一つにパラフィン果実袋の開発がある。

この技術の有効性を明らかにしたのは、奈良県の奥徳平氏であり、大正4年(1915年)にパラフィン紙袋を幼果にかぶせることで黒斑病の防除に成功した。これを受けて鳥取県の指導者高田豊四郎氏は、大正13年(1924年)に奥氏に会ってこの技術を導入した。これを機に、昭和2年(1927年)にはパラフィン紙袋(県外から購入)が全県下に普及していった。戦後は、物資不足から良質な紙が入手できないことから、鳥取県の二十世紀梨生産者が自分たちの袋は自分たちで作ろうと立ち上がり、鳥取県果実農業協同組合の自営工場として果実袋工場が昭和24年(1949年)に設立された。

  一方、昭和初期から昭和37年(1962年)頃までの袋かけ法は、落花後を経過してから果梗に脱脂綿を巻いて10切りパラフィン袋(ミシン縫い合わせ)をかけ、さらに6月下旬には油引き新聞袋を掛ける2回かけが主流であった。ただし、早期に袋かけを望むところでは、10切りパラフィン袋を掛ける前にさらに小型の30切りパラフィン袋をかけ、計3回の袋かけを行っていた。

  この労力軽減を図るため、昭和36年(1961年)から県果実連(現JA全農とっとり)と果実試験場が共同して簡易袋の開発と袋かけ体系の確立試験に着手した。さまざまな試行錯誤を繰り返し、昭和41年には小袋(ワンタッチではない)とハトロン合わせ大袋の組み合わせによる省力法が、県内袋需要の80%を占めるまでになった。昭和43年には、改良合わせ大袋、45年には接着剤を利用したワンタッチ小袋が開発され、実用化された。特にワンタッチ小袋は早期に被袋が可能となり、一人一時間で掛けられる袋数が600枚と高能率となり、昭和51年ごろには二十世紀梨のほぼ全果実に使われるようになった。この間、現場の農家からさまざまな知恵が出され、最終的に大袋を空気で膨らます技術、大袋容器(パットケース)の開発等につながり、大袋かけの能率も一人一時間当たり200枚まで向上した。合わせ袋が開発されるまでの時代が、一時間当たり100枚程度であったのに比べると大幅な袋かけ能率の向上であった。袋掛けの能率化はこれで限界に達したかに見えたが、昭和57年には、止め金つきワンタッチ大袋が実用化されて、能率がこれまでに比べて50%向上し、一人一時間あたり300枚の袋掛けが可能となり現在に至っている。

2.果実袋と果実品質の関係についての理論解明
 1. 袋かけの目的と効果
  歴史的背景から考えても袋かけの最大の目的は黒斑病防除のためである。さらには、二十世紀に限らずすべての品種で、黒斑病、輪紋病、ヤガ類、カメムシ類、シンクイムシ類、カイガラムシ類などの病害虫や鳥害などから果実を保護する目的もある。第2の目的として果面の外観向上があげられる。果実袋は果実の生育中に散布薬剤や枝すれから果実を守り、果面を保護するとともに、果点や果点間コルク(汚れ)の発達を抑制して、青梨特有のなめらかな肌に仕上げる効果を持っている。第3の目的は、果実袋の温室効果によって、果実の初期生育を促進させることである。これによって早期出荷が可能となる。
 2. 果実袋に要求される機能

  果実袋には、撥水性、耐水性、通気性、光透過性、防虫防菌性などの機能が求められる。現在の果実袋は、果実周辺の微気象をコントロールする技術を確立しようと産官学が一丸となって、さまざまな試行錯誤を繰り返してき
た結果、誕生したものである。二十世紀梨については現在、小袋、大袋の2回掛けが基本となっており、袋にはそれぞれ役割がある。
 ・小袋の役割   
  パラフィン処理された小袋は、黒斑病貫通阻止効果がある。さらに、幼果表面の孔辺細胞が崩壊してコルク(果点)が形成される開花後25〜30日前後までに小袋を掛けると小さな果点にとどまり、果面が美しく仕上
がる。このころには、果梗の強度も高まり、軸折れすることもない。また、小袋は、日中の袋内の気温を高めて幼果の細胞分裂を促し、大玉になる素質を持った果実を育てる重要な役割を担う。
 ・大袋の役割
  長年の研究開発により、大袋の種類によって、熟期や果実品質に差が現れることが明らかとなっている。つまり、紙の色、原紙の通気性、二重袋の紙の組み合わせなどによって、袋内の温度、湿度及び光線透過率に影響
が出て、これが果実品質を左右する要因となることが明らかとなったのである。鳥取県の二十世紀で多く使用されている2種類の大袋などは、これらの原理をうまく利用して開発された果実袋の代表例である。

3.果実袋の今後
  近年、黒斑病耐病性のゴールド二十世紀などの栽培面積の増加により、果実袋は黒斑病対策の役割を終えつつある。今後は袋掛けの省力かと競合品種に負けない食味を最大のテーマとしながら、外観の向上、熟期調節を開発の目標に掲げることが望ましいと考える。具体的には以下のようである。
 1. 2回掛け栽培の場合  ・一重大袋の開発
  現在、撥水剤処理の褐色一重の大袋が製造され、一部現地で実用化されている。これを処理した果実の食味は良好であるが、年によっては、秀率が低下することがあり、広く普及するには至っていない。一重大袋の欠点を補う紙質や処理剤の開発を進め、ゴールド二十世紀のメリットを活かした一重大袋体系を確立しなければならない。
 2. 1回掛けの場合  ・中袋(小型大袋)1回掛け栽培
  現在、県内でも「あいみ燦ゴールド」、「サンゴールド」などの商品名で販売されているゴールド二十世紀に使用されているタイプの袋である。7月中旬には風などで破袋し、除袋され以降は無袋となる。本タイプの袋を使用する場合の条件として、ヤガ、カメムシなどの飛来害虫から果実を守るための多目的防災網の施設が必要となる。果実品質については、現行の2回掛けよりも糖度は約1度上がるが、外観は汚れる。食味の良さが認められた一定のルートでは、高値がついている。ただし、市場流通の場合、外観が重視される傾向にあるとすれば、一定の外観を保つための袋開発が重要である。