【奈良県果樹研究会レポート】
和ナシのユズ肌・石ナシ対策  福長信吾
 

  二十世紀梨のユズ肌病は水生理の障害としてすでに著明である。6月〜8月の乾燥は ユズ肌果となり果面にユズ状の凸凹を生じ、果皮が硬くなる。さらに症状が進むと凸凹が大きくなり果肉まで硬化して、食に供されなくなる。一方、かつて赤ナシの代表品種とされた長十郎も果面に大きな凸凹を生じ重症果では変形、タテ溝を生じ果肉全体が硬化して食に供し得なくなり、これを石ナシと称している。明治時代、県下に長十郎の石化病なる障害果が発生したと文献にあるから、この石ナシもユズ肌病と共に古くからある病気である。現在も斑鳩町稲葉の長十郎は石ナシで悩ませているし、大淀町の二十世紀梨も依然ユズ肌病は解消していない。ここ数年西吉野村白銀で二十世紀梨に石ナシが増加の傾向にある。
  石ナシというのは元来西洋梨に名づけられたもので果頂部の硬化現象をさす。(ハード エンド)この症状が進んで果実の過半分ないし全体に拡大黒変して、二次的に輪紋病等 に侵されて軟腐病を呈する重症果は尻腐れ(ブラックエンド)と呼ばれている。二十世 紀梨のユズ肌病も長十郎の石ナシも西洋ナシの障害も何れも、果実の硬化現象を伴うも ので、共通した原因によって生ずるものと思われる。和ナシの場合、果面凸凹の小さい ものをユズ肌病、大きいものを石ナシと使い分けているが、最近の研究から両者とも同 じ原因によるものと考えられ、症状は品種によって若干の差はあるが果実硬化障害とし て受け止めた方が理解しやすい。
  ユズ肌病は夏季(6月〜8月)乾燥による水分不足で葉と果実間の苛烈な水分競合の 結果生ずるものと理解されているが、長十郎の石ナシも夏季日中の葉の水分不足は顕著 である。葉に奪水された果実内細胞の一部は発育を停止し、果実の肥大と共に果面の凸 凹が顕著になる。一方、障害園の土壌中の加里含量が高く石灰含量が低い傾向にあり、 果実内の加里、石灰、苦土含量の相互不均衡を生じて細胞の膜機能を低下させ、これが 果肉硬化に結びつくという解釈がなされている。これは細胞同士の接着機能をもつペク チンが、その成分である石灰に対し加里や苦土が入れ換わる結果、分解酵素の働きを受 け難くなるためであろう。障害が肉眼で認められる時期よりかなり早く果肉細胞の機能 障害が認められており内生ホルモンの分泌に異常が起こる。そこで不足するホルモンを 与えてやると障害の発生が軽減するという報告もある。以上の研究から障害発生防止対 策として、水と栄養を中心に耕種的な立場で以下に検討してみたい。

1.体内水分のストレス緩和
  1. 土壌排水、潅水
    夏季乾燥時に葉や果実に十分な水を補給するには、先ず根の働きそのものが健全 でなければならない。障害発生は他府県の事例をみても水田地帯や第三紀層に多い。湿害が主要な誘因と考えられ、酸素不足で根の老化または枯死を招き、根量少なく過湿後の過乾で地上部への水補給が不足する。このような状態は潅水を行っても充分な効果をあげられない。暗渠や明渠排水で土壌通気を良くし根の働きをよくしてやると年とともに障害果の発生が少なくなる。土壌排水の効果は非常に大きく、新根、再生根の発生が活発で、マルチや潅水の効果も強く現れる。
  2. マルチ
    根群が浅いと夏季の乾燥の影響も強い。草生栽培はナシ樹との水分競合を引き起 こすので問題にならない。乾燥防止としてマルチは効果的な対策であるが年中マルチするのは春先の地温上昇を遅らせ(つまり根の活動開始が遅れる)、過湿土壌では反って湿害を助長する。それで根群が浅く粘質土あるいは排水不良土壌では梅雨明け直後のマルチがよい。梅雨明け直後と云えば、まだ水不足は起こらないと考えられがちだが葉面蒸散量は梅雨時と変わらず、ナシ樹は急速に水分ストレスに落ち込んでゆくので時期を失せずマルチする必要がある。
  3. 台木
    北支マメナシ台はヤマナシ台と比較して耐湿性にすぐれており根群大きく、根量も多い。また、北支マメナシは石灰の吸収量も多いと云われる。それで障害発生対策として北支マメナシ台利用が望ましい。しかし、この場合も土壌不良条件は改善されねばならない。
  4. 栽植距離・剪定整技
    障害樹は徒長枝の発生が多く樹相が落着いていない。無駄な葉が多いというのは、 体内の水分ストレスを一層厳しくする。夏季剪定で葉面積を少なくしても、また、 葉面蒸散抑制剤を利用しても簡単にはこの障害を防止できるものではない。栽植距離は余裕をもたせ密植をさけ、強剪定による徒長枝の発生は極力、避けなけ
ればならない。また、障害樹に対する剪定は側枝の勢力を揃え短果枝主体の方法に 切換えることが必要である。一般に障害樹は花芽着生も多いので(老化現象)強め の花芽抑制を行う必要もある。
  5. 結実量と摘果
    成らせすぎで次年度以降助長した事例が多い。根群発育不良と重なると、この傾 向は顕著に現れる(老化促進)。したがって結果量をやや少なくして樹の負担を軽くする。長十郎の場合、摘果時期を早くすると石ナシ発生を少なくした事例がある。
二十世紀梨では双子花の果実や有帯果はユズ肌病になりやすいので摘果する。    

2.樹体栄養

  1. 土づくり
    根群の発育を促すには土壌排水と併行して有機物を補給して土づくりすることが 大事である。障害園土壌は加里含量が高く、一般に酸性で石灰分が少ない。次項で 述べるように石灰や苦土が障害と重要な係わりを持つので、先ず休眠期の有機物や 石灰、苦土の補給で土壌改良を進める必要がある。
  2. 施肥合理化
    多くの研究結果は障害果実内の石灰含有量が健全果より少ないとしており、土壌 に石灰を補給することにより障害発生を軽減した実験結果もある。また、すべての 報告は果実内加里含有が障害果で高く、加里施用で人為的に障害果を発生させた実 験結果もある。
    加里はマルチで自然補給されやすいほか、果実肥大を促進する実肥として、過 用される恐れがある。加里の供給過剰は石灰や苦土の吸収を抑制する。はじめに述べた ように果実内の石灰が少ないのと、逆に加里が多くなるとペクチンの成分が変わり、 細胞膜が降下する現象を引き起こす。酸性土壌で石灰が少ないところへ加里過剰に なると、この硬化現象を一層助長することになる。したがって前記の土壌改良資材 の投入とともに加里の減施の方向で施肥計画を立てる必要がある。加里は、また根 の生理的乾燥を起しやすいので、とくに梅雨明け頃の追肥には加里の加用は避けね ばならない。なお、石灰を補給しても過湿、過乾土壌では障害防止効果が低い。施 肥改善だけではなく、土づくりや水管理の重要性も併せて理解しなければならない。
  3. 品種更新
    ユズ肌や石ナシは品種によってでにくいものがある。千葉県の事例だがユズ肌の 甚だしい二十世紀梨に幸水梨を高接ぎ更新するのも間接対策として一つの方法が ある。